熊本日日新聞「持論百論−地域の医療危機−」(8/25)

生活軽視する政策こそ問題


地域の医療危機が叫ばれています。協会の考えを教えてください。
 「まず憂慮しているのは病院で働く勤務医の疲弊です。医療技術の高度化やインフォームドコンセントなど、二次救急と呼ばれる高度医療を担う病院では、より多くの医療従事者を必要とするようになりました。しかし、医学部の定員は増やされず、医師不足が起きています。夜間当直や長時間労働、夜勤明けの日勤などが恒常化し、疲れて病院を退職する勤務医も少なくありません。県北部などでは、地域医療の中核となるはずの公立病院も医師の確保に苦労しています。しかし、医師の疲弊に地域差はありません。熊本都市圏でも、いつ医療提供体制に大きな影響が起きてもおかしくない状況です」

国は、個人医院の開業医が、
      もっと夜間や休日診療を拡大することを期待しています。

 「相次ぐ医療費の抑制策は、医院の体力を奪ってしまいました。夜間勤務する看護師などのスタッフを雇用できず、入院を受け入れなくなった医院も多数あります。国は昼間の初診料や再診料を下げて、時間外の診療報酬を増やす方針と聞きます。しかし、一人の医師しかいないのに、何人もの夜間急患に十分対応できる医院があるのでしょうか。患者さんにとっても不安でしょう」

医療費の伸びを抑制する国に対して政策転換を求めますか。
 「医師不足などの医療危機は、医療費抑制の結果です。しかし、抑えられているのは医療費だけではありません。教育や福祉、環境保護の予算も同様です。医療費の増額だけを訴えても国民の理解は得られないでしょう。私は、国民の生活を軽視する国の政策そのものに問題があると考えています。経済の国際競争力を高めるために輸出力がある大企業を優遇した税制が続いています。一方で、国保料や、高齢者の医療費負担などは増えています。そんな政策をやめ、国民のための政策を充実させていく。その結果として、医師不足などの医療危機も解消されるでしょう」

読者へのメッセージを。
 「最近、医療訴訟や看護師への暴力など医療現場でのトラブルが増えています。患者さんの一部で権利意識が高まり過ぎる一方で、医療側の未熟さも一因にあります。残念なことです。医療の充実には国民の理解が不可欠です。私たち医療従事者も、国民のための医療に努めたいと思っています」
(梅野智博)


平成19年8月25日  熊本県保険医協会会長 吉住 眞