福島県立大野病院事件の裁判開始にあたって


 福島県大熊町の県立大野病院で、2004年12月、帝王切開した女性が死亡した医療事故で、執刀した産婦人科医師が業務上過失致死と医師法違反容疑で逮捕、起訴された事件の初公判が、1月26日に行われた。
 協会は昨年3月、事件は深刻な産婦人科医不足や県立病院全体の安全体制の問題に深く根ざしたものであり、一産婦人科医の責任として矮小化することは許されないとして、逮捕、起訴に抗議する協会声明を発表した。同時に、医療事故に対する対応の基本は、被害者救済と再発防止との立場から、政府に対して、医療過誤事件における被害を速やかに救済するための第三者機関の設立や無過失補償制度の創設、深刻な医師不足や地域偏在の解消を求めてきた。
 この間、厚生労働、文部科学、総務の三省による「新医師確保総合対策」に、医療事故に係る死因究明制度や無過失補償制度の検討が盛り込まれた。現在検討されている無過失補償制度は分娩に関連する脳性麻痺に限定し、財源についても産科医師等の保険料でまかなうなど十分と言えるものではないが、政府としても、医療事故防止に向けて対応せざるを得ない状況が生まれている。
 公判前整理手続きで確定した争点にも含まれている医師法違反についても、「異状死」の定義は極めて不明確な現状で、本事件の死亡が「異状死」かどうか医療界でも判断が分かれているところである。柳沢厚労相も有識者による検討を含めて、医師法21条の見直しを表明している。
 逮捕・起訴以来、1人医師の産科医療は閉鎖・再編され、地域での産科医療の確保が一層困難になっている。本事件を、結果のみに基づき刑事事件として起訴することが、本来追求すべき医療事故の原因究明と再発防止に寄与するどころか、逆に医療現場での萎縮診療の広がりや地域医療の弱体化につながらないか、強い危惧を抱かざるを得ない。
 公判開始にあたり、改めて、産婦人科医師の逮捕、起訴に厳重に抗議するとともに、無罪判決を強く要望する。同時に、医療事故を取り扱う第三者機関や無過失補償制度の創設など、下記事項の実現を要望する。


  1. 医療事故を取り扱う公正中立な第三者機関を設置すること。
  2. 医療事故による死亡については、第三者機関に届け出る仕組みを整備すること。
  3. 被害者の迅速な救済のため、無過失補償制度の導入を検討すること。

2007年2月13日
熊本県保険医協会