2003年4月14日

介護報酬の引き下げと介護保険料の引き上げに抗議する

熊本県保険医協会
会長 上塚 高弘

 本年4月、介護報酬の改定が行われた。厚生労働省の発表によれば、今回の改定は全体としてマイナス2.3%、中でも施設系サービスはマイナス4.0%と、大幅な引き下げになっている。今回のマイナス改定について厚生労働省は、介護事業経営実態調査などでの施設の収支状況がプラスであったため、施設サービス費を引き下げたと説明している。
 介護報酬については、保険料との兼ね合いで介護保険制度発足時より抑制されてきた経過があり、事業者の努力によって収支構造を改善してきた結果が、実態調査等の収益の数字に現れたといえる。
 経営努力は限界に達し、これ以上の介護報酬の抑制は介護サービスの質を低下させ、サービス事業者の存続すら危うくしかねない。当会としては今回の改定内容について、特に下記に掲げる点において問題があると考えており、厚生労働省及び政府に対し、早急に改善を求めるものである。
一方で、4月より介護保険料は引き上げられた。特に1号被保険者の上げ幅が大きく、熊本県においても平均で22%のアップとなっている。多くの年金生活者にとって、年間4万円を超す保険料負担は決して軽くはない。さらに基準額の1.5倍の保険料を負担しなければならない1号被保険者の所得基準が年収200万円に引き下げられたため、保険料の逆累進性がより強まったと言える。
 各市町村におけるサービス費が増えれば、保険料は当然増えることになる。厚生労働省は「保険料の上昇幅をできる限り抑制」するためマイナス改定を行ったとしているが、要介護者にとって必要なサービスが提供されなくなれば、いくら保険料が安くても介護保険の意味がなくなる。高齢化の進行で、介護サービスへの需要が確実に増えることは間違いない。保険料負担が限界に達する中で、一定レベルのサービス提供については公的に保障するなど、安心できる国民生活を実現するため、国と自治体がその役割を果たすよう強く要求する。


要介護度が低い患者の施設サービス費の引き上げること
 昨年10月1日から医療機関に180日を超えて入院している患者の入院料が、医療保険の通常の保険給付の範囲から外され、給付額も引き下げられた。厚生労働省は、これらの患者は居宅もしくは介護保険施設での受け入れが適当との見解を示している。  一方、今回の護施設サービス費の大幅な引き下げにより、要介護度の低い患者の受け入れが一層困難になった。やむを得ず医療機関を退院し、自宅での療養が困難な患者は行き場を失うことになる。
 たとえ要介護度1の患者であっても、当該患者の介護にかかる基本的な人件費や施設費を賄うことができるレベルの単位数は保障すべきである。

通所リハビリテーションの施設基準を緩和すること
 通所リハビテーションの施設基準が変更され、これまで週1日以上の勤務があれば認められてきた理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、小規模施設における経験を有する看護師(以下、「理学療法士等」)の人員配置基準が、1単位あたり常勤換算で0.2人(小規模は0.1人)以上とされた。1単位あたり0.2人とはいえ、通所リハビリテーションを実施する日には、必ず理学療法士等が勤務しなくてはならない。郡部など理学療法士等の採用が難しい地域においては、サービス提供に支障が出る恐れがある。
 附則により、本年9月30日までは従前の基準で差し支えないこととされているが、従前の基準に戻すか、1週あたり常勤者の所定労働時間の2割以上勤務する理学療法士等を配置すれば認めるなど、当該基準を緩和すべきである。

居宅介護支援に対する評価をさらに見直すこと
 厚生労働省では、今回の介護報酬改定の特徴のひとつに「質の高い居宅介護支援の評価」をあげている。要介護度による算定単位数の区分が廃止され、報酬が引き上げられたが、月1回の居宅への訪問など、新たに設けられた要件を満たさない場合は、居宅介護支援費を減算する仕組みが導入された。質の高いサービスの評価であれば、本来は加算により評価すべきである。
 また、今回の改定での対応が求められていた、住宅改修のコーディネートに対する評価は見送られた。このことについても介護報酬に加算を設けるなどして早急に対処すべきである。

介護タクシーの介護報酬を引き上げること
 いわゆる「介護タクシー」に対応した、「通院等の乗降介助」のための報酬が訪問介護費に新設された。当該サービスは、これまで身体介護としての算定が認められており、新単位数はその半分以下に設定された。この報酬削減を受けて、すでにこのサービスから撤退する事業者が現れており、サービス利用者への悪影響が懸念されている。このサービスに限らず、採算がとれない金額では、介護報酬の設定そのものに問題があると言わざるを得ない。事業者がサービス提供を継続できるレベルまで、早急に単位数を引き上げるべきである。