佐伯のいりこ
かつて我が家の2つの冷凍庫~冷蔵庫には未開封の「佐伯のいりこ」が山のように積まれていました。
私は大分県佐伯市宇目町出身で、両親は私の家族を支援するために水俣・熊本に移住していましたが、佐伯の知人との交流が続いていたため、
「佐伯のいりこ」が我が家にありました。しかし、私にはいりこへの関心はありませんでした。
ところが、私が味噌汁をつくる役を担うことになり、この「いりこ」が目に飛び込んできました。賞味期限はとっくに切れてはいるものの、品質に問題はなさそうなので使うことにしました。
やがて使い尽くし、鰹節を使ったりスーパーで売っているいりこを買ってみたのですが、やはり「佐伯のいりこ」とは味が違うことに気が付きました。ちりめんも大分産が値段も高くおいしいです。
そこで、佐伯の知人の漁業関係者に「いりこ・ちりめん」を送ってもらえないか相談すると「いりこで出汁を取る人は、今は少ない」と喜んで送ってくれ、今もこれからも続くでしょう。
「おばちゃん(私の母)のそうめんの出汁はおいしかった」などと昔話も語られ、高校時代(佐伯鶴城)の友人に聞いてみると、
いりことシイタケとカツオを使うとのこと。カツオ抜きで早速作ってみるとそれでも深い味わいでした。
ある時「佐伯のいりこは味が違うけど何が影響するのか?」と質問してみました。「海の違い、魚の違いもあります。同じ海でも魚の群れによって脂ののり具合や形も変わってきます。
いま、前期のいりこの時期で僕も毎日炊いています。佐伯のいりこは炊いて冷風乾燥機で2日かけてゆっくり乾かします。地域によってはボイラーを炊いて熱風乾燥するところが多いので、
魚がスカスカになって味が変わってくると思います。梅雨時期は脂の少ないいりこが採れるので、暑いですが頑張り時です」との返事。正直繊細さに驚きました。
こんな繊細な感覚で仕事をしている漁師さんにとって、福島の「ALPS処理水」の海洋投棄にどんな思いでいるかを思い切ってたずねてみました。
しばらくして「個人的には反対です」「漁業は風評被害で売り上げが落ち、やっと戻りつつあった生活が危うくなると思います。九州ですから危機感はまだ薄いのですが、
東北の漁師の方は大変だと思います。特に魚を海外に輸出する会社はなおさらです」彼の予想は的中した。私はIAEAなどしっかり学び始めました。これからも「佐伯のいりこ」がお気に入りで在り続けるように。
くわみず病院
板井 八重子(2024年5月『熊本保険医新聞』掲載)