噴火口「科学的根拠に基づくがん検診を」

 10月はピンクリボン月間。検診受診の動機づけとして、熊本城や私のクリニックを今年もピンク色にライトアップしました。

 第4期がん対策推進基本計画が令和5年3月28日に閣議決定されました。全体目標の3本の柱は、①科学的根拠に基づくがん予防、がん検診の充実 ②患者本位のがん医療の実現 ③尊厳をもって安心して暮らせる社会の構築です。第3期がん対策推進基本計画報告では、②と③については「一定の評価はできるが改善の余地あり」とされています。しかし、最も重要ながん死亡率減少については、①により全体的に減少しつつあるものの「衛生状態の改善や治療法の劇的な変化など一部の要因に下支えされている可能性がある」とされており、対策 の成果は未知数と言えます。

 私が専門とする乳がんに関しては、2000年のマンモグラフィ検診導入以降も、歳未満女性の乳がん年齢調整死亡率は右肩上がりです。欧米諸国では導入後に死亡率が低下していることと比べても、わが国のがん検診はがん対策として不十分であると考えられます。これまで各自治体は、がん対策推進基本計画の個別目標「乳がん検診や大腸がん検診などの受診率50%以上」のみを重視してきましたが、それだけで良いのでしょうか?

 がん死亡率減少のための国際標準の組織型検診の要件は、科学的根拠のあるがん検診を前提にそれを集中的に管理して行うことで、 OECD加盟国など多くの先進国で乳がん、子宮がん死亡率減少の成果を上げてきました。一方、わ が国の80%以上の自治体で国際標準とかけ離れた科学的根拠に基づかない検診が実施されており、成果に乏しい要因と考えられます。

 2018年のm3.comでの意識調査において、ある癌「Z」の5年生存率について、検診受診群は99%、非受診群は68%という情報を示した場合、 この検診を患者に勧めると答えた医師は80%以上でした。また、「この検診が死亡を減らすと思うか」の問いに61%が「そう思う」と回答し、 内99.5%が検診の効果を高く評価していました。追加情報として両群の早期癌の比率を加えると、「勧める」とした中の47.1%が「より勧めたくなった」と回答しています。 一方で、「非検診群1000人のうち2人、検診群1000人のうち1.6人が死亡する」といった両群の死亡率を示すと、検診を勧めると答えた医師は40%を切りました。 死亡率に加え両群の罹患率(非検診群1000人のうち例、検診群は例)を追加提示したところ、検診をより勧めたくなったとの回答は27.6%、変わらないは62.3%でした。 検診群は非検診群に比べて「Z」の危険因子がより多くあった、検診によって癌発見数が多くなれば死亡率減少はなお著しいなどの追加提示した質問結果を踏まえて、 この調査を監修した人は、「観察研究での生存率比較はバイアスの影響を受けるため、研究結果の評価には研究デザインと測定項目の吟味が重要であり、 日本でも検診の有効性吟味のスキルを医師の生涯教育に取り組む必要がある」と考察していました。確かに現在の医学カリキュラムには、無症状者についての教育はありません。 今後の課題の一つと言えます。

 がん死亡率減少のためには2次予防であるがん検診が具体的な手段であるにもかかわらず、現場の医師ですら検診の科学的根拠の重要性についての知識が足りず、 バイアスに左右されているのが現状で、自治体の認識も不十分なのは明らかです。「効果のある、実効性のある、国際標準をふまえた検診」の推進に一丸となって取り組むことが不可避です。 加えて、全てのがん検診で精密検査受診率90%を目標にする努力が必要で、行政と連携した施策展開が欠かせないと考えています。

副会長
秋月 美和(2023年11月『熊本保険医新聞』掲載)