それは能登から始まった そして現在進行形

 今年1月1日の能登半島地震は、熊本地震を思い出させてくれた。月末の女性医師部会で、それは一層身近なものとなった。「能登の避難所では、男性が生理用品を1人1枚と言って配っているらしい」。熊本地震の翌年、県知事・熊本市長へ「安心安全な避難所運営のために」の「提言」を提出して安心していたことに頭を殴られたような気がした。避難所運営に女性リーダー配置をという単純な願いさえ7年たっても変わっていない。女性医師部会で話し合い「提言」を役立てていただければと、理事会を通じて全国の災害対策会議経由で石川に届けることが出来た。

 その後東京協会から「提言」について『診療研究』への原稿依頼があり、「社会的性差」特集の同6月号に掲載された。もう一度2017年の提言を読み返し、改めて当時の熱意を思い起こしつつ、今日的にも役立つ提言であることを確信した。骨子は4点にまとめてあった。①避難所運営に携わる女性リーダーの育成 ②避難所での性被害の対策の周知と対策 ③口腔ケア・口腔衛生・感染症対策など健康管理 ④日常的な行政と住民のネットワーク構築。特に重視したのは②で、日常では守られるルールも非常時には我慢が強いられる傾向がある。現実的に避難所内で性被害が発生していた状況を記述し、性被害の温床である「雑魚寝」をなくすためにベッドの使用を推奨した。日常的な性暴力防止の啓発はわかりやすいことばでくりかえし伝え続ける必要がある。

 災害と女性というキーワードに関心を寄せていると、東日本大震災から10年にして「災害女性学」が生まれている情報に遭遇した。ジェンダー平等を社会の常識とするための粘り強い取り組みを、声を上げにくい人の声を掬い上げ、現場・現実から出発した実践知・学際的知を謳っている。各地で災害女性学の講座が取り組まれているが、ここ熊本でも9月にリーダーのおひとり、浅野富美枝氏(宮城学院女子大学元教授)の講演会が計画されている。

 今年は地域の隣保班の組長の役が回ってきて、先日は地区別懇談会があった。自治会長、副会長のほか、隣保班の防犯係や組長さん10人ほどの参加者。ハザードマップも話題になり、熊本地震の時の性被害を紹介し「防止に大切だと言われている段ボールベッドや簡易トイレはどこに保管されているのでしょうか?誰に聞いてもご存じないんですが」と質問した。参加者の中に情報通の方がいて「段ボールベッドは久留米と鹿児島に保管されていて、プッシュ方式で来るので避難所のニーズにマッチするかわかりません」「大切な質問なので報告をお願いします」と自治会長に回答を促してくれた。

 我が国とは雲泥の差がある台湾の避難所運営についてチャットGPTに聞いてみた。台湾も以前は体育館が避難所になっていたが、30年前の地震を機に行政とNPOが連携して日常的な訓練を行う中で次第に改善が図られ今日に至ったそうだ。

 運転中のラジオから、どこかの自治体で避難所運営に当たる女性リーダーの会合を開いたというニュースが流れて来た。前途は洋々だが現在進行形である。

くわみず病院
板井 八重子(2024年9月『熊本保険医新聞』掲載)