熊本には熊がいない

 数年前、東北自動車道を走った。紅葉の季節、九州とは樹木の種類も違って左右に赤や黄色の林が続き素敵だった。しかしトイレ休憩にSAに降りてみると、あちこちにミサイル注意の絵が描かれた看板があった。サイレンや携帯音がなったらミサイルに注意してくださいといった内容だけど、どう注意したらよいのか、旅行者にはさっぱりわからない。

 今年6月に友人と、草津温泉、軽井沢あたりをレンタカーでまわった。八ッ場ダムがいきなり現れてびっくりしたけど、山道にはいたるところに「熊注意」の看板が立っていた。日が暮れたら、ダムの道の駅の駐車場もこわそう。浅間山火山博物館の案内があったので従って行ったら大きな建物にたどり着いた。バブルの後の閉館でさびれ、ひろい駐車場にはわたしたちの車一台だけ。周辺は野生植物の公園になっていたが、いたるところに熊注意の看板がある。展望台までの道も友人と二人では不安。躊躇していたら、観光バス2台が来て多くの観光客が降りてきたので、ラッキーと後ろについて遊歩道を歩いた。みなさん熊鈴を腰に下げていた。自宅に戻ってから、ドライブルートの途中の安中市で、熊が家の中に入り込み高齢者にけがをおわせたと、ニュースで放映されていた。

 7月に学会で札幌に行った。ついでに知り合いの先生のクリニックにご挨拶に行った。ふつうに「このへんには去年熊がでたんだよね」とにやり。旅行者はひたすら早朝は出歩かないようにと努めるしかない。

 日頃、当クリニックには、中高校生の患者さんが多数来院されている。若い人相手に、「地震、かみなり、火事、おやじ」の話をすることがある。順番のあとになるほど、予測と予防ができるので対策を考えることができると説明している。上手に、年長の男性(最近はおやじみたいな女性もいる)からの攻撃をさけることもソーシャルスキルであると思う。

 さて熊は、いずこにランクされるのかな。ミサイルは地震と同程度かな。新型コロナウイルス感染症も地震くらいに災害だったなあと考えられる。思い出すのも嫌なくらい。まだ余震があるのも似ている。時間が経過して公的補助金がなくなったけれども、もとの世界には戻らない。災害は温暖化、気候変動で増えるかもしれない。かみなり、火事が増えるとしたら心配。

 とはいえ、熊本には熊がいないので、安全なほうだと思う。鹿やイノシシに 車がぶつかったなどの話は聞くけれども。

熊本ファミリーメンタルクリニック
安川 節子(2024年8月『熊本保険医新聞』掲載)