2024年の医療問題

 ヒラリー・クリントンさんが「クレイジー」と報告した日本の皆保険制度。何度かの大波をかぶりながら生き延びてきましたが、今回は「医師の働き方改革」だそうです。

 私が医師免許を取得した1992年は、はるか昔のこと。その頃はまさか「医師は労働者である」などと言われるとは思いもしませんでした。熊大第二外科の研修医時代から、「すべては患者のために」と、大手術後は患者さんの横で仮眠していた日々が懐かしいです(戻りたくはありませんが)。  

 3月、熊本市の救急隊と医療機関との合同研修に参加させていただきました。年間4万5千件の救急要請、そのうち800件がCPA(心肺停止)。搬送先医療機関の確保が年々きびしくなってきているとのこと。そして2024年4月からの「医師の働き方改革」で救急搬送がどうなってしまうのか、最前線の救急隊の苦悩が伝わりました。私たちにもふたを開けてみなければわからないことではありますが、確実に言えるのは、夜間における受入れ制限がでてしまうこと。

 当院のような小規模の救急医療機関では、平日の日勤帯は常勤医が外来診察と並行で、急患を受けます。夜間休日に関しては、救命センターのような交替勤務のシフトは組めず、当直体制で急患の受け入れをおこなってきました。急患0名の夜もあれば救急搬送3台の日もありました。かかりつけの患者様の急病でのウォークインもほぼ毎日ございます。疲れることもありましたが、相手は急患、診ないわけにはいかないと思っていました。ところがこの4月からは、労働基準法上「休息をとらせないといけない」時間帯が発生し、私たち医療 従事者の意向とは全く関係なく、その時間帯の急患を受け入れることができないようになりました。

 「どうして診てくれない」「もう5件目です、お願いします診察を」「国の方針です、法律で決まっています、すみません…」断るのもなじられるのも現場のスタッフです。私たちは病める人々を助けるために医師になったのに。

 国が決めたことであり、国民の健康に大きくかかわる変更ですが、残念なことに一般の方がこの実情をよく知らされていません。平日の診療時間を月~金の8時間とすると、夜間休日時間外は年間総時間数の75%に上ります。時間内が25%で時間外が75%です。どうぞみなさんが、時間外にご病気やけがをされませんようにと祈るばかりです。

東病院 総合診療科
東 和子(2024年4月『熊本保険医新聞』掲載)