女性医師部会だからできる取り組み

 本協会の女性医師部会(通称JOYJOYの会)の活動について、月刊保団連6月号への原稿執筆依頼があり、これまでの歩みを振り返りました。「女性であることがハンデとなることなくキャリアを積めるような社会を」という目的で、前部会長の板井八重子先生を中心に1998年に発足しました。運営委員は錚々たるメンバーで、それぞれの専門科の話題をテーマとした学習会が定期的に開催され、その中の一つに性犯罪や性教育があり、現在も引き続き検討課題となっています。

 板井先生からのご縁で、2012年から熊本県の女性弁護士との交流会が開催されています。2014年に熊本県が、性暴力被害者のためのワンストップ支援センターを設立するということを聞き、提言をすることにしました。それまで性被害問題に各々異なる立場で関わってきた経験と、既に運用が始まっていた他県のコアメンバーとの繋がりを生かし、意見交換会を繰り返して提言をまとめました。これは、私の部会加入後の大きな取り組みの一つとなりました。

 提言作成時、「被害者は女性だけだと思われているが、男性もいて、言い出せないこともあると思う」という意見を述べた先生がいました。実際にはもう少し過激な表現だったからか、その場は冷笑で終わりました。当時は、男性が自分の支配欲と性欲を満たす対象としてしか女性を見ていない、ということが性暴力の原因と考えられていたからです。

 今年、大手芸能事務所での少年への性加害が話題となっています。多数の少年が対象となったこと、芸能事務所でのセクハラ行為を認めた判決が2004年に確定していたこと、約20年後になってようやくその事実が明るみに出たことに大変驚かされました。ワンストップへの相談は男性からもありますが、数は少なく、警察への届け出も女性に比べて少ないと言われています。判決から10年近くも経過していたのに、冷笑していたことを反省しなければなりません。

 性被害は魂の殺人で、被害を受けた後も長期にわたり苦しみが続きます。対人関係の不安や性への歪んだイメージのため声をあげづらく、ネット社会も更に悪影響を及ぼします。では、私達医師には何ができるのでしょうか。それは、適切で体系的な性教育を子供の頃から受けられる環境の整備です。日本で現在まで行われてきた「はどめ規定」、すなわち性教育の実践を抑制し規制するのではなく、一人ひとりの人権を尊重する考えに立った教育が、これからは必要になってくることでしょう。部会委員である池田景子先生が続けられている「水着で隠すプライベートゾーンは、本人の許可なく見たり触ったり、見せたり触らせたりしてはいけない場所」という教育。子どものうちから、互いを尊重し合い大切にするという考えに基づいた教育を、性被害を減らすためにも女性医師部会として続けていかなければなりません。

みわクリニック
秋月 美和(2023年8月『熊本保険医新聞』掲載)