コロナ禍で読んでみた『レッドゾーン』(夏川草介著・小学館)

 2022年夏の第七波は今までにない感染力でした。新規感染者数が、熊本県で1日5000人を超えた日もありましたね。皆様の中にも感染された方もおられるかと存じます。私も7月末に感染し、39℃が二日間、激しいのどの痛みと咳でぐったりしていました。「これで軽症、なのか・・」今後は軽症の患者さんにもやさしくしようと思います。
 当院は2020年12月の第三波から、コロナ病床を開設しています。今期も熊本の病床利用率は高止まり。民間病院、医師一人のコロナ病床では、連日ハードなコロナ対応を余儀なくされました。そもそもは「コロナ軽症なら受け入れ可能」でスタートしたのですが、現在保健所から入院依頼されるのは、血中の酸素値の低下もしくは肺炎発症の「中等症」以上。点滴や解熱剤などと、多くは酸素投与に加え、頻回の痰吸引が必要です。このエアロゾル発生のハイリスク作業を、看護師が的確に対応してくれています。
 コロナ以外の病状にも非常に対応時間をとられます。高齢者が多く、一気にADLが低下し寝たきり化することも多いので、その対応も。看護必要度が高く、防護服の下は汗がしたたり落ちています。「認知症」では徘徊、不潔行為、さらに抵抗・暴力でこちらの防護服を引き裂いたり、あげくには隔離エリアからの徘徊脱出しようとしたり。酸素使用の部屋でたばこを吸おうとしたり、パンツ一丁で徘徊したり。
 入院時の情報が極端に少ないのもコロナの特徴。「肋骨新鮮骨折」で受け入れると「手指骨折」や「顔面・眼底骨折」が合併していたり。通常は専門病院へコンサルトすべき症例も、経過を観察せざるを得ず、これって医療崩壊だよねとつぶやいています。
 そんなくたくたのコロナ診療の最前線を医師目線で描いた小説『レッドゾーン』が、2022年9月4日初版で発行されました。作者は信州大学卒の消化器病専門医。前作『臨床の砦』でいち早くコロナ診療を表現され、今回その続編として出版されました。軽妙な文体で、一気に読めます。
 信州の架空の病院が舞台。時期はコロナ第一波。そう、あのクルーズ船の時期です。患者受け入れにおける葛藤、ためらい、恐怖感。現場スタッフは命がけにもかかわらず、「コロナ病院」「コロナにかかわる医療従事者」に対する一般の方の冷ややかな視線。見事に表現されています。信州のしかもフィクションとなっていますが、あのころ、どこでも内情は一緒だったんだなあと懐かしく思います。ワクチンもなく、治療薬もなく、防護服も足りず。当院も「コロナ受け入れ病院」であることは、一般の患者さんにはしばらく隠していました。頑張っているスタッフも、家族からは不安視されたり、学童・保育を拒否されたり(実際にあったことです)。
 続々編が期待されます。そこでコロナ収束が描かれることを願ってやみません。

東病院総合診療科(コロナ病床担当医) 東 和子(2022年6月『熊本保険医新聞』掲載)