ケアが尊重される社会とは?

image

 今年3月31日でくすのきクリニック院長を辞任し、社会医療法人のすべての役職から解放され、パート医として週5日間の9時~5時(土曜日は~12時)という勤務になった。4月には初めての年休を取得し、5月から6月にかけて長年の宿題になっていたインプラントや白内障の手術などの身体のメンテナンスができた。おかげで、最近では医療機関で測定する血圧も120台とかつてない良好なコントロールに達している。
 かねてより熊本福祉会理事長という役職についていたが、理事会・評議員会に参加することしかできず心苦しかったこともあり、実質的な役割を果たしたいと行動を始めることにした。現場は特別養護老人ホーム・デイサービス・訪問介護事業所・居宅支援事業所で、まさに介護保険の真っただ中の事業所。まずリーダー職員とのミーティングや職場のラウンドを始めたところである。労働組合からも申し入れがあり、面談を行い、直行便の希望があったので職員に名前を募集して、『理事長への架け橋』とした。
 従来の会議でも、居住系の経営は比較的安定しているが、通所系はヘルパーとして登録する方が不足しており、需要にこたえられないこと、介護職員の確保が困難で、高い紹介料を要求される紹介業者に頼らざるを得ない状況が常態化し、経営を圧迫していることの報告を受けてた。その原因の一つに、介護という職業の社会的評価が低いことがあると考えている。
 そもそも家事や育児にかかわる人:つまり大部分は女性の家事労働の対価が評価されるようになった歴史は極めて浅いらしい。介護の社会化の名のもとに介護保険制度が開始されて21年。昨年、同居する父親の介護保険を申請したら“要介護1”であった。介護サービスの利用を渋る父の尊厳を守りながら対応してくれるケアマネージャーをはじめ、介護スタッフのおかげで、今では父の生活が支えられ、私の仕事・生活が支えられている。
 「どうしたら社会的評価を高められるのだろうか?」そんなことを考えていた矢先、先日亡くなられた経済評論家の内橋克人氏を偲ぶTV番組『内橋克人の伝言』が目に留まった。労働とは、そもそも人間が豊かになるためのものであること。人間と人間の関係・人間と自然の共同の関係を築くために、21世紀への提言として、食料(Food)、エネルギー(Energy)、医療介護福祉(Care)、すなわちFECを中心にした地域共同体を提唱していたことを知った。氏の分厚い経済学の書籍は読破できなかったが、この提言はわかりやすかった。21世紀の当初よりも今はさらに切実に響く。
 ケアが尊重されるとは、ケアだけでなく人の営みそのものが大切にされる、これから必要とされる社会だと改めて思う。

くわみず病院 板井 八重子(2021年11月『熊本保険医新聞』掲載)