人生を変える部活体験

 「保険医協会って知ってる?」
 2019年7月、小児科の女医先輩からそう声をかけられた私。
 「子どもの虐待とか貧困問題とかに取り組んでいる女医さんの会があるのよ。若い小児科の先生に入って欲しいんだけど、先生どうかな?」
 当時、私は小1になったばかりの息子の学校問題で超絶悩んでいた頃。
 それでも、二つ返事で「やってみたいです」って言えたのは、医師として社会貢献にも興味があったから。
 こうして、私は女性医師部会に参加しました。
 入ってみて驚いたこと。それは、先輩先生方の知識や興味の幅広さ。月1の会議で話されるのは、女医のキャリア問題から、虐待・貧困などの社会問題、趣味やおすすめ書籍の話、時には井戸端会議のような世間話まで。
 お話を聞くたびに、自分はいかに狭い世界で生きてきたかを痛感していました。
 医師になったばかりの頃は、大きな夢を描き、「お母さんと赤ちゃんのために活動したい!」と言っていたこともありました。
 けれど、経験を積めば積むほど、夢のサイズは縮んでいき、だんだん、自分が確実に達成できる範囲の目標しか描かなくなりました。
 でも、日々患者さんと向き合っていると、病院だけでは解決しない問題も山ほど出てきます。そんな時、「こんなしくみがあったらいいのにな」と一瞬思っても、すぐに「いやいや、無理でしょ」と打ち消してしまう。そして、他の人に丸投げしてしまう。心躍るような、ワクワクする夢を描いて実現したい!という思いとはうらはらに、できないことに目をつぶって無かったことにしてきたんです。
 そんな中、女性医師部会の虐待についての講演会で素敵な小児科女医さんに出会います。虐待を世の中からなくすべく生き生きと活動する姿に心をうたれ、私にも、病院や地域でお母さんと子どもをサポートする活動ができないかな?そんな夢を心に宿すようになりました。
 あの講演会から1年半。私は病院を飛び出し、子どもの病気に悩むお母さんたちと、アルバム作りを通じてお話会を開催し、診察室では決してみられないお母さんたちの笑顔を見させていただいています。
 私にとって、女性医師部会は部活のようなもの。年齢もバックグラウンドも違う女医さんたちが集まり、いろんな活動を通じて社会のために考え動く。いつも多くの刺激をいただく場所です。
 そして、この「部活」が私の人生を変えるきっかけになったことを今は心から感謝しています。

慈恵病院 小児科 森 博子(2021年9月『熊本保険医新聞』掲載)