ガラスの天井は割れるのか?

 四年ぶりに米大統領選挙の投票が行われた。 今回まれに見る激戦を制したのはジョー・バイデン氏だったが、開票後に敗戦をなかなか認めないトランプ大統領の大人げない行動や言動も含め、はっきり言ってあまり関心はなかった。それよりも私が注目したのは、米国初の女性、それも黒人、アジア系で副大統領に就任するであろうカマラ・ハリス上院議員である。加えて、同時に行われた上下院議員選挙で当選した女性の割合は、いずれも約25%で過去最多の女性議員誕生となった。奇しくも、トランプ大統領の女性蔑視発言に対しての怒りから、女性の立候補者が増えた結果とも言える。
 対して、日本の女性議員の割合は約10%に過ぎない。これまで「初の女性総理大臣か?」と取り沙汰されてきた人達も、出る杭が打たれるように、ことごとく梯子を外されてきた。政界だけでなく企業においても、決裁権を持つ女性リーダーは数少ない。日本にもバイデン氏のように性別や人種に囚われないボスはいると思われるが、古い慣習を曲げてまで後押しはしないのだろう。
 ただ、自民党の杉田水脈衆院議員が、周囲より目立ちたいがために炎上を狙ってかどうか、前回のLGBT非生産性発言に続いて、性暴力被害について「女性はいくらでもうそをつける」と被害女性が虚偽申告するかのような女性蔑視と取れる発言をした事について、菅首相は明確に批判しなかったが、この後押しは少し意味合いが違う感じがする。このような人を選んだ側も悪いが、選ばれた側、特に女性は少数のため同じ事をしても目立つということを認識し、言動や行動に責任を持つべきである。一人の悪い評価が女性全体の評価になりかねない。そうなると、いつまで経っても、ガラスの天井は高い位置のままである。
 私の場合、女性ということで梯子を外そうとする人もいたが、一方で意思を尊重し応援や後押しをしてくれる人もいて、これまで恵まれてきた。勝利宣言後のハリス氏の演説は、SNS上でも話題になったが、彼女は「私は初の女性副大統領になりますが、最後の女性副大統領にはならないでしょう。なぜなら今夜、ここが可能性に満ちあふれた国だということを、全ての少女たちが目の当たりにしているからです。そして、私たちの国は、性別に関係なく、はっきりとしたメッセージを子どもたちに送りました」と述べた。4年前、ヒラリー・クリントン氏が敗北宣言の中で「ガラスの天井」という言葉を初めて用いて「きっと誰かが、いつの日か打ち砕くだろう」との希望を語った。米国の女性参政権が憲法で認められて100年となる節目の年にハリス氏がそこにヒビを入れ、それに続く若い女性達に繋げていくのだろう。医学会でも「ガラスの天井」の存在は常に論じられてきた。私達がヒビを入れるきっかけを模索し、これから活躍していく女性医師に、高いガラスの天井を打ち砕ける可能性のメッセージを伝えることができればと切に願う。

みわクリニック 秋月美和(2020年12月『熊本保険医新聞』掲載)