会長 上塚 高弘

 衆議院続き、参議院でも医療法等関連法案(いわゆる健保法改悪)が、十分な審議をすることなく、無修正で強行採決された。国民の命と健康に重大な影響を及ぼす法案が、このような形で決められていくことに激しい怒りを感じる。
 この結果、十月からは老人が一割負担(高額所得者二割)となり、しかも限度額が大幅に引き上げられたから、老人は医療費を幾ら用意していけばよいか分らず、受診抑制が進むことは明らかである。負担を考えて、本来ならしたほうがいい検査などを控えることもでてくるだろう。特に在宅医療では負担が大きくなりやすく、訪問診療や訪問介護を断られるケースも出てくるだろうし、病状の悪化を招かないかと憂慮される。

 来年三月からは健保本人の負担が三割になる。負担が一割から二割になった時に受診抑制が見られ、その影響は現在も続いているほどだから、三割になれば更にその傾向は顕著となるだろう。一家の大黒柱が受診抑制で手遅れになる悲劇が生じる恐れがある。
 これら受診抑制が、四月の診療報酬引き下げで打撃を受けた医療機関の経営悪化に追い討ちをかけることは勿論で、民間医療機関を主体に世界最高の医療を提供してきたわが国の医療体制が、崩壊の危機を迎えているといえる。

 今回の小泉内閣の医療改革は、長年漫然と行われてきた自民党政府の医療政策、経済政策の失敗を国民や医療機関に尻拭いさせようとしているもので、到底容認できない。わが国の国力を考慮すれば、十分社会保障の充実は出来るはずであるが、経済優先で弱者に配慮しようとしない自民党政権ではそれは期待できない。

 日医もそろそろ自民党支持の方針を変更しないと国民からそっぽを向かれることになろう。
 ※2002年8月5日付『熊本保険医新聞』掲載
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