新たな思い

 同期からの年賀状に、「昨年、産婦人科医院を閉院しました」と書き添えてあった。昨年秋には、やはり後輩が産婦人科医院を閉院したと伝え聞いた。分娩を取り扱っていると、24時間365日、神経が休まらない。二人とも本当に心身共に疲れてしまったのだろうと思う。この後の人生をどのように過ごすのかは聞いていないが、しばらくはゆっくり休んでほしい。

 また、個人のクリニックに勤務していた後輩は、院長が代替わりすることや、60歳になったこともあって、定年退職したと言っていた。今は他の病院で週2回外来をしており、平日にゆっくり時間が取れるようになって、趣味のバイクを思う存分乗り回しているらしい。

 研修医時代にお世話になった大先輩の女性医師は、勤務医を辞め、42歳で婦人科のみのクリニックを開業された。現在では、そのような開業形態は多くなったが、その先駆けであり、私も開業前からいろいろ教えて頂き、相談していたが、67歳の時、突然閉院された。今後家族の看護や介護が必要となった時にすぐ動けるように、というのがその理由だった。患者さんも多く、バリバリ働いていた姿が印象的で、私の目標だったのに。私にと っては衝撃的な理由だった。「医師免許は持っておくけど、学会は全てやめ、資格は全て返上したら、スッキリしたわよ」と笑っておられた。やり切ったからこその潔さなのだったのだろうか。閉院数年後から、お母さんの介護を全力でやったと話しておられた。何にでも全力投球の姿勢だったと、一緒に仕事をしていた時のことを思い出した。

 もうすぐ、私もその年齢になる。開業して30年目、視力、体力、忍耐力の低下は自覚している。そろそろ辞めることも考えるようになりました、と気弱なことを年賀状に書いたら、御歳96歳の恩師から、喝!「一隅を照らす者これ至宝。あと10年光を出しなさい。世の為人の為!それが医師の使命だから」力強い字で返事を頂いた。潔さも覚悟もない甘さや迷いを見抜かれた気がした。

 微かな光でも出し続けて、やり切ったと思えるまでできる限り頑張ろう、と思いを新たにした。

池田クリニック
池田 景子(2024年3月『熊本保険医新聞』掲載)