ここまできたインスリンポンプ
ハイブリッドクローズドループインスリンポンプは血糖コントロールの指標(HbA1c,GMI,%CV,TIR)を更に改善させる

 先日、第66回日本糖尿病学会総会が鹿児島で開催された。いつ頃からか、発表にはCOIの開示が必須となり、数年前から更に、演題登録には倫理委員会の承認が必要となり、倫理委員会の設置できない診療所で孤軍奮闘している者にはいよいよ演題が出しにくくなった。倫理委員会を通さず済むのは、人を対象としている場合、症例報告だけであった。

 私の専門は糖尿病であるが、この分野にもヘルスケアテクノロジーの波が押し寄せており。その一つがインスリンポンプである。インスリンポンプ療法は2000年に保険適応項目に正式に加えられ、以来ポンプの機能は進歩し、基礎インスリン投与量をプレプログラムすることが可能となり、次に、糖質量を見積もってインスリン投与量を計算する応用カーボカウントを利用したボーラスウイザード機能(糖質量等を入力するとインスリン投与量を自動的に計算する機能)がつき、更に、持続血糖測定モニターとの連動で、低血糖を予測し自動的にポンプが止まるスマートガード機能が搭載され、これで低血糖を心配することなくインスリン投与が可能となった。そして、基礎インスリンが自動調整可能なオートモード機能を持ったMiniMed770Gが日本でも使用可能となった。

 しかし、インスリンポンプを使用する患者の大半は内因性インスリン分泌の枯渇した1型糖尿病である。インスリンを中止すると簡単にケトアシドーシスになる。機械に命を預けられるか?機械なんかに自分よりコントロールがうまくできるはずがない。みんな機械を信用していなかった。

 半信半疑で新しいポンプを使い始めた。とりあえず、食事の影響のない夜間だけ使ってみてもらった。ポンプの使用感を尋ねても、反応は今ひとつだった。やはりだめかと半ば諦め気味にデータを見てみると、一瞬目を見張った。夜間の血糖はフラットにコントロールされていた。〝これはいけるかも〟、〝どこまでやれるかやってみよう〟、オートモード機能を使う時間を徐々に延ばしてもらうことにした。結果を見て、思わず涙が出そうになった。血糖コントロールの指標(HbA1c,GMI,%CV,TIR)が、全て改善していた。血糖正常化も夢ではない。私は、症例報告を書き、演題に極めて主観的な表現を使った。〝ここまできたインスリンポンプ〟。

 学会中、インスリンポンプのイベントが開催されていた。13時30分から、日本で最もポンプを使用している施設の一つである神戸大学の廣田勇士先生を囲んだMeet the Expartという少人数のセミナーが開催されることになっている。それは思わぬことだった。症例持ち込み可とのことで、思い付きで、予約もせずにセミナーに参加することにした。私はある確信が欲しかった。実はオートモード機能をフル活用するには少しばかりの技が必要で、そのままオートモード機能を使っても、よくなるとは限らないのである。私は、〝この後、15時30分から発表予定の症例ですが、…〟と、切り出した。6人程で、うち女性医師4人、廣田先生を囲み実にリアルなディスカッションとなった。廣田先生のコメントは私が確認したかった内容を支持するものであった。ポンプにまつわる話1時間、これで十分だった。こんなゲリラ的侵入を許してもらえたのも女性医師だからかもしれない。

  もはや演題発表などどうでも良かったが、時間になり無事発表を終え席に戻った。そこには廣田先生の姿があった。

もりの木クリニック
矢野 まゆみ(2023年6月『熊本保険医新聞』掲載)