真空パック食品とボツリヌスと食中毒

 今年も梅雨が近付いてきた、梅雨時期と気温の上がる時期は食中毒に関する啓発が盛んになる。「からし蓮根による食中毒」当時小学生だった私もそうだが、今なお多くの県民の記憶に深く残っているのではないだろうか。原囚はボツリヌス毒素であった。お十産用の真空パック詰めだったことが影響したと記憶しているが、ボツリヌス菌は芽胞を形成する偏性嫌気性グラム陽性桿菌で、いずしなどの発酵食品や真空パック食品が主な原因食だ。
 ボツリヌス食中毒は、菌の増殖に伴って産生された毒素を経口摂取することで発症する。摂取量が発症までの時間に影響し、潜伏時間の多くは12~24時間といわれる。短時間で命に係わる状態になり得るため、早期の治療介入が必要である。そしてボツリヌスによる感染症は、最近、コロナ関連で耳にすることも多い「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)で四類感染症とされ、全数把握の対象となっている。
 そのようなボツリヌス食中毒が、昨夏三七年ぶりに熊本県内で発生した。余談だが、これまでに日木で発生したボツリヌス食中毒はA型、B型、E型毒素のいずれかが原因であったが、今回は日本初のC型毒素が原因で、真空パック食品を起因とした。おそらく同一ロットの商品にはボツリヌス菌芽胞の混在があったと思われるが、その他の製品について同様の事例や苫情はなく、また販売店の温度管理も問題がなかったため、原因は購入後に冷蔵が必要な真空パック食品をレトルト食品と誤って認識し、常温で管理されたことであると考えられた。
 真空パック食品の保存については、厚生労働省のHP内でも啓発用のチラシ等が掲載されており、「要冷蔵」等の記載がある場合、適切な温度管理の必要とボツリヌス食中毒について言及されている。食中毒予防の三原則は原因菌を「つけない」「増やさない」「やっつける」である。増やさないためには温度管理が重要だが、最近は大型店舗も多く、要冷蔵品をかごに入れてから家庭で冷蔵庫に入れるまでの時間が長くなりがちなので注意が必要だ。また今回の件同様、真空パック食品は油断しがちだが、保存方法について確認し、要冷蔵等の記載があれば必ず冷蔵保存することが重要だ。そして、袋が膨張している際は菌の増殖の可能性があるので、食べてはいけない。なってからでは遅い、なんといっても食中毒は予防が一番だ。

熊本県山鹿保健所 小山 宏美 (2022年6月『熊本保険医新聞』掲載)