エール ~YELL~

 4月は始まりの季節である。入学式を終え、黄色い帽子に大きなランドセルを背負った新1年生が登校している様子は、なんとも微笑ましい。
 今年、医学部の入学者は9,111人、医師国家試験合格者は9,058人だった。初心を忘れずに医師を目指して欲しい。従兄弟の息子も今年医学生になった。彼の理想の医師像は、地域医療に一生を捧げた亡き祖父(私の叔父)だそうだ。やっとスタートラインに立った、真っ直ぐな彼の決意を見守りたい。
 また、夢に向かって、自分の可能性を信じて、プロの世界に飛び込んだ若者もいる。プロ野球ドラフトで選択された人は68人、育成ドラフトでは48人である。就職場所と言われる大相撲春場所では、新弟子35人が厳しい土俵の世界に飛び込んだ。結果が全ての世界である。自分で切り拓いていくしかない。
 一方、夢や希望が叶わず、苦渋の選択をせざるを得ない若者も大勢いる。コロナ禍で先が見えず、今までと全く異なる職場に出向させられたり、職を失ったり、希望が持てない春を迎えた人も少なくないだろう。先日、コロナのため、オンライン面接で就職したが、実際に働いてみるとブラック企業だったので、1週間(!)で辞めたという人がニュースになっていた。詳しい状況は分からないが、たった1週間である。
 大昔、高校受験の時のことである。田舎の中学校から受験するので、試験前日はみんなで旅館に泊まり、高校1年生の先輩が激励に来てくれるのが慣わしだった。その時、ある先輩が言った言葉が忘れられない。「高校に入ってすぐは、いろいろ嫌なところばかりが目について、戸惑うことや辛いことが多いけれど、だんだんといいところ、楽しいところがわかってくるからね」。研修医の時は、指導医に叱責され、(自分が悪いのであるが)、病院の屋上で泣いたこともあった。研修先では、助産師さんにビシビシ鍛えられ、何度も心が折れそうになった。初めての環境下では、すぐに自分の居場所を見つけることは難しい。思い描いた理想には程遠いのが現実である。先輩の言葉を、最初はそういうものかな?と軽く受け止めていたが、この言葉を信じてやってきて、今がある。
 スタートラインに立った若者は、この数か月、どうだっただろう?現実の厳しさに落ち込んではいないだろうか?先の見えない不安に押しつぶされそうになっていないだろうか?
 しかし、いきものがかりのヒット曲『YELL』を添えて、あえて贈りたい。
 〝頑張れ!〟

池田クリニック 池田景子(2021年6月『熊本保険医新聞』掲載)