児童虐待問題を知る

~子どもたちを苦しみから救うために地域医療機関ができること~

 令和元年11月29日(金)、同仁堂ホールスタジオライフにて、女性医師部会企画学習会「児童虐待問題を知る~子どもたちを苦しみから救うために地域医療機関ができること~」を開催しました。講師は熊本赤十字病院小児科の武藤雄一郎先生、香川県の四国こどもとおとなの医療センター小児科の木下あゆみ先生で、それぞれのお立場から、日本で起こる児童虐待の実情や対策についてお話しいただきました。各医療機関をはじめ、行政・司法・警察・教育など、多方面から児童虐待に向き合っておられる94名の参加者の皆さまとの活発な討論も行われ、大変盛況でした。円本の児童虐待は待ったなしの状況で、私たち医療機関を含む関係者が連携・協力してセーフティネットを広げていくことが求められています。学習会で得られた知見を皆さまへ広げていく第一歩として、この場をお借りして学習会のご報告をしたいと思います。

武藤雄一郞氏
武藤 雄一郞 氏

 まず、武藤先生からは、熊本赤十字病院で経験された児童虐待症例の報告と、虐待を疑う症例に対応すべく同院で平成25年に立ち上げた「保護事案対応専門委員会」をご紹介いただきました。この委員会は、医師・看護師・MSW・事務職員などで構成され、児童虐待だけでなく、DVや高齢者・障がい者虐待などあらゆる虐待を疑う事案に、多職種チームで対応する組織です。虐待を疑ったとき、主治医が治療と通告を一手に背負うシステムでは、個人の著しい負担と、個別対応での判断の差など問題点が生じます。同院では虐待を疑った場合の対応をまとめたフローチャート・マニュアル・チェックリストなどを作成・共有することで、判断の個人差が減り、治療と通告を分けたことで個人の負担も減ったとのことでした。また、虐待を少しでも疑う場合、不慮の事故から虐待の診断まで、4つのカテゴリー分類で判断することで、虐待症例のみならず、今後虐待につながるかもしれない育児不安・虐待予備軍を見逃さない工夫をされているとのことでした。現在、熊本赤十字病院と児相・警察との連携を進めているものの、県内での児童虐待に対する連携はまだまだこれからであり、多職種・複数機関との顔の見える協力体制を整えていきたいと話されました。

木下あゆみ氏
木下 あゆみ 氏

 次に、木下先生からは、支援を必要とする子どもたちを漏らさず救うために関係機関がどう連携していけばよいのか、連携が進んでいる香川県の状況をお話されました。先生は、全国的に大きく報じられた虐待事件で犠牲になったお子さんが、香川県で暮らしていた時の主治医でした。当時は病院・関係機関の見守りや支援の網を張り巡らせることで何とか落ち着いていた家庭が、転居により支援が完全になくなり、転居後たった39日でお子さんは命を落としてしまったのです。子どもを守る網は一つでも多い方がいい、隙間を作らないようにする必要がある、と何度も話されていたのが印象的でした。さらに、医療機関では、常に虐待を気にかける「準備」と、生じた懸念を放置しない「対処」の二つがあれば、虐待を見逃さないことにつながること、虐待を疑い通告することは、加害者の告発ではなく家族支援のきっかけであり、様子を見るだけでは虐待へ加担しているのと同じであると強調されました。香川県では、医療機関だけでなく、児相、警察、検察など多職種でのネットワーク整備が進んでおり、お互いのできることを探し、お互いに感謝しながら、職種間ののりしろを広げてネットワークの隙間を埋めていくことが重要であると話されました。

全体風景

 今回の学習会を通じて、児童虐待の現実と対策を知ることができましたが、「勉強になったね」ですませてはいけないと感じています。誰もが、「虐待から親子を守る一人」にも、「虐待の引き金を引く一人」にもなりうることを自分事として感じ、子どもを守る「網」の一つになれるように、熊本らしい児童虐待対策への一歩を踏み出していきたいと思いました。

部会委員 森 博子(慈恵病院小児科)記(2020年4月『熊本保険医新聞』掲載)